埼玉のマヌケでむじっけー妖怪をめぐる散歩旅
■きっかけの隕石と雷獣
2023年の夏。
国立科学博物館で、埼玉県越谷市に落下した『越谷隕石』が公開されました。
このニュースを見て「本当に越谷に隕石落ちてたんだ…!?」と思った人は何人いたでしょう。
私は埼玉で暮らすおじいさんおばあさんから話を聞いたことがありました。
「なんか落ちたらしいんだよねぇ~」なんてふわふわした語り口でしたが、本当だったんだなぁ。
マスコットキャラのトトミさん
「ちなみに、越谷には隕石だけではなく『雷獣』も落ちたという話があるよ!」
これも、同じおじいさんから聞いた話。
隕石の話と一緒に思い出しました。
「落雷後に田畑に落ちているのを発見された雷獣……。
けど次の日には動かなくなっていたんだとか……!」
雷獣の体は灰色で、もぐらのような見た目だったとのこと。
※改めて調べたら、こんな感じの見た目だったらしい。
『武蔵志料』に記録されています。
見つけたそれは本当にもぐらだったのでは?(それかネズミ)
なんて思ってしまうのですが……。
「でも、パーツを見るとあまりもぐらっぽくないような。
妙に目が鋭いし、ポケモンのアーボの尻尾みたいな鼻がついてるし……」
確かに鼻が変。なんでしょうこの生き物(?)は。
「雷獣を調べると、他にもいろいろな姿で発見されてるみたい」
他を検索すると、越谷で見つかった雷獣は一番見た目が可愛らしい気がします。
埼玉では『可愛い』を『むじっけー』と言うのですが(むじっけーという言葉もどことなく語感がマヌケである)ぴったりだなぁ。
不思議な生き物に心を乱されながらも、子どもの頃に聞いた昔話と妖怪の名前をすんなり思い出した事実が妙に愉快でした。
記憶って面白い。
他にも何か覚えていないか記憶を呼び起こすと、ダイダラボッチ、大蛇、河童、袖引き小僧の話をおぼろげに覚えていました。
「埼玉は海がないから、山や川や村の近くに現れる妖怪が多いね」
■妖怪とは
当然のように妖怪の話をし始めましたが、妖怪について。
「妖怪は、干ばつや大地震などの災害や、
理由のわからない怪現象を説明するため。
または子どもを危険な場所に近づけないための戒めに
存在しているんだとか……」
ということは、妙に妖怪の話を聞かされて育った私は、何度も言いつけておかないとホイホイ危ない場所に行くような子どもだと思われていたのでしょうか。
……確かにそうかもしれない。
でももう大人なので、昔近づくなと言われた場所にも堂々と行ってしまおう。
今年の夏は、妖怪がいると語られていた場所に直接足を運び、妖怪たちの姿を想像して楽しむことにしました。
■ダイダラボッチ
足跡公園
埼玉県坂戸市には、ダイダラボッチの足跡がある公園があります。
この辺りの民話を元に作られたそうで、名前もそのまま『足跡公園』といいます。
Googleマップで確認すると、住宅街に大きい足跡があってむじっけー(可愛い)です。
足跡公園には北坂戸駅からバスで向かいます。
行き先は『入西公園前』。
バス停からすぐの場所に、案内が出ていました。
「せせらぎの……?」(通りだった)
足跡公園の入り口です。
夏の真昼に出かけたので、子どもは誰も遊んでいませんでした。
公園どころか周辺の道も誰も歩いていないので、めちゃくちゃ静かです。
「公園をひとりじめだ……!」
遠慮なく写真を撮って帰りましょう。
公園の中を歩いているとダイダラボッチの絵本を発見。
草むらにポツンとある石の台座の上に、絵本が置いてある光景。
なんだかゲームっぽくてドキっとしました。
絵本は金属でできている様子。雨に濡れても大丈夫ですね。
「公園で気軽に民話に触れられるの、いいなぁ……」
実際にページを捲って読めるようなので、さっそく手を伸ばしたのですが……。
金属のページは重いうえに日光を浴びて地獄のように熱くなっており、捲るたびにギギギギギ……と金属同士の擦れる音が鳴りました。
一瞬ダイダラボッチが鳴いたのかと思ったけど、そんなわけがない。
「絵本の中のダイダラボッチは、すごく優しい顔をしてるから……!」
予想外の音に慌てつつ、でも周りに誰もいないし……と気を取り直して最後まで読みました。
静かな公園に、めちゃくちゃな金属音を響かせてしまった。
異音に刺激されたのか、しばらく静かだったのに急にセミが鳴きだした気がします。
うるさい×うるさいの大合唱です。許してください。
絵本を読み終わると、すぐ横にダイダラボッチの足跡がありました。
足跡は砂場になっており、むじっけーです。
……でも、思っていたよりもサイズが小さいような?
(このサイズでも、踏まれたら一撃でやられるくらいには大きいけども)
足跡がこのくらいの大きさなら、足の長さは、腰の位置は、頭の位置は……?
と想像しながら空を見上げたら太陽が眩しすぎて眩暈がしました。
最初はなんとなく小さいように感じたけれど、頭の位置まで想像したら充分大きかったです。
あっつい太陽だって遮ってくれるぐらい大きいでしょう。
公園には砂場以外に滑り台もあるのですが、ちょうど足跡の横にあり……。
滑り降りた先が、足跡のかかとの部分に繋がっているのが、なんかいい。
「うぅ……子どもたちが実際に遊んでいる姿を見られなくて残念……」
足跡の砂場で砂山を作ったり、宝探しをしたり、滑り台で遊んだり。
夏の真昼に来たせいで、公園らしい賑やかな光景は見られませんでしたが、子どもたちが遊んだ痕跡は発見しました。
ダイダラボッチの爪先を見ると……。
ちょうど足の人差し指にだけ、なぜか小石がばらまかれていました。
ダイダラボッチの爪先に座って小石で遊んでたのかな、なんて想像してしまいます。
白い石は触るとすべすべしていました。
指は子どもが二~三人横に並んで座れるぐらいの大きさで、むじっけーです。
「私、小指とった!」「じゃあ僕は親指!」とか、指(座り場所)の取り合いもあるかもしれません。
それにしても、普段この公園で遊んでいる子どもたちは、大人になったら「子どもの頃ダイダラボッチの足跡がある公園で遊んでたんだよ!」って言えるんですね。
羨ましいです。なんだかロマンがあります。
公園の近く、バス停のちょうど前に大きいパン屋があるのもすごく羨ましかったです。
「暑くない時期にここでパンを買って、ダイダラボッチの爪先に座って食べてみたいかも……」
ひとつやりたいことが増えました。
とげ橋
坂戸市の隣の川越市にも、ダイダラボッチに関わる場所があります。
『とげ橋』と、ダイダラボッチの『ションベンでできた池』があるという話。
ションベンでできた池は、私がダイダラボッチ関連で一番覚えていたマヌケな話でした。
「そんな大昔のションベンが今も残ってるの!?」
調べてみると、今はなくなっているそうです(名前はオッポリ池というらしい)
残念。すごく残念です。
今の時代、どこかに新しく大きな池ができても「ダイダラボッチがションベンしたからできたんだ!」なんて絶対に言わないでしょう。
「ここは昔からそう呼ばれているんだよ」と年配者に説明されながら、大きな池を眺めてみたかったです。
(どうにか今、漏らしてくれないかな……)
本当にどうにかなりませんかね。
オッポリ池を見られないのは残念ですが、気を取り直して小畔川にある『とげ橋』を見に行くことにしました。
とげ橋には、川越駅からバスで向かいました。
私は『城西高校』で降りてしまいましたが、次の『落合橋南詰』で降りたほうがいいです。
バスを降りて左手に歩いていき、落合橋へ。
落合橋は入間川と小畔川と越辺川の、三本の川に架かる大きな橋です。
車もびゅんびゅん走っています。
落合橋を歩いていくと、途中で曲がり角があり、ここを曲がると小畔川沿いに歩くことができます。
川辺の草が元気で、小畔川が見えたり見えなかったり……。
水が流れる音もあまり聞こえません。
ただただ蝉が鳴いていて、狭い道を進むたびにバッタが飛び交います。
めちゃくちゃ体当たりされるので、恐らく歓迎されていません。
バッタに攻撃されながらも進むと、遠くから別の音が聞こえてきました。
ブイーンと草刈りの音。ちょうど除草期間だったようです。
落合橋からとげ橋まで、結構歩きます。
草刈り作業中のおじさん二人と、自転車に乗っているおじさん二人とすれ違いましたが、歩いている人は自分しかいません。
「折り畳み自転車が欲しくなったね」
ひたすら歩き続けて、ようやくとげ橋を発見。
車がびゅんびゅん走っています。
「人がいる場所に合流できた……」という気持ちになりました。
逆側から撮るとこんな感じ。
思っていたよりもしっかりしている橋でした。
「とげの漢字って「莿」なんだ」
変換できなくてIMEパッドで手書きして出しました。
とげ橋の上を歩きながら、ダイダラボッチとトゲの話を思い出します。
「小畔川は昔、川の流れが早くて橋を架け辛かったみたい。
そんな時に近辺を歩いていたダイダラボッチの足にトゲが刺さって、
抜いたトゲを川の真ん中に刺したことで、
そのトゲが丈夫な杭になって橋を架けられるようになったんだとか」
「……」
「ダイダラボッチ怪我してない?
それこそ刺さった瞬間、漏らしてない!?」
少し心配になりますが、とにかく近辺の人は助かったのです。
川の近くなら漏らしてもわかりませんし。
とげ橋の上から見た小畔川。
先に足跡公園を見に行ったおかげで、なんとなくダイダラボッチの足の大きさがわかり、トゲもこのくらいの大きさだったのかな……と想像できました。
結構大きなトゲだったのではと思いつつ、なんとなくダイダラボッチは痛みに鈍そうなイメージもあります。
いや、足の裏の硬さは個体差もあるかもしれないけれど。
とげ橋の傍には、せんべいとおかきの工場がありました。
「足の裏にトゲ刺さるの嫌すぎるから、ダイダラボッチもおいしいせんべいを食べて元気出してほしいね……」
歩いている人は自分以外いないけれど、車はたくさん走っていました。
ダイダラボッチの足に刺さったトゲがきっかけでできた橋、大活躍しています。
ありがとう、ダイダラボッチ。
■大蛇
大蛇が関わる場所は、実は小畔川の落合橋ととげ橋の間にありました。
ちょうどとげ橋と並んで書かれていたので、写真を撮ってしまった。
(こちらは「莿」ではなく「刺」の漢字が使われていますね)
次は、大蛇の話に出てくる『鎌取橋』に向かいます。
てくてくと道を戻っていき……。
着きました。こちらが鎌取橋です。
こちらの橋ができた由来に大蛇が関わっているんだとか。
「この辺りには『小次郎』という名の大蛇がいたの。
ある日、小次郎は川の近くで鎌を使って作業していた美少年を気に入って、
美女に変身して近づいたけど相手にされなかった。
腹を立てた小次郎は少年から鎌を奪い取り、川に投げ捨て……。
それで鎌取橋ができたんだとか!」
なんで……?
なぜ大蛇が美少年にフラれた場所に橋が……。
この後も小次郎はたびたび怒って、川が荒れたり火の玉が飛んだり。
若い男性は外に出ないよう気をつけたそうです。
「小次郎は小畔川が荒れた時、川に近づかないようにっていう戒めの存在なのかも」
鎌取橋自体は、コンパクトなサイズでむじっけーです。
ですが自分が大蛇だったら「そんなところに橋を作られたら見るたびフラれたことを思い出すだろ!」という気持ちになります。
黒歴史を刺激されるたび、川も荒らしたくなる。
「妖怪が美女に姿を変えて人間に近づく話はよくあるけど、
拒否された挙句に逆切れして、相手の持ち物を投げ捨てるのはマヌケだなぁ……」
美少年は自分の顔の良さに慣れているので、美人にちょっかいをかけられても簡単にはなびかないのかもしれません。
鎌取橋から見た小畔川。
川に近くて水の音が心地いいです。
川沿いを歩いている間めちゃくちゃ暑かったのですが、水の近くは涼しいですね。
穏やかな川を、ぼんやり眺めてしまいました。
まさか大蛇が美少年にフラれてできた場所だとは思えません。
橋の隙間から川が見えます。
昔からある橋って感じでいいですね。
穏やかな小畔川で、ダイダラボッチが足の裏を怪我したり、大蛇が美少年にフラれたり、なかなかマヌケでむじっけー姿を想像できました。
■河童
マヌケな話というと、熊谷市に伝わる『河童の妙薬』も、子どもの頃に聞いて「あほだな~!?」と思った話です。
「熊谷市に住むとある女将さんが厠で尻を撫でられて、
それも連日撫でられるから、ある夜犯人の手を掴んでちょん切ってしまうの。
その翌日、謎の老人(または僧)が腕を取り返しにきたけど、
なんと謎の老人は荒川に住む河童だった!
女将さんは河童に腕を返す代わりに、妙薬の作り方を教えてもらい、
薬を売って大金持ちに……というお話!」
悪戯した河童が許してもらう代わりに妙薬の作り方を人間に教える話は、日本各地に残っているそうです。
けれども尻を撫でて腕を切られるって、あまりにもマヌケすぎる。
というか女将も強い。咄嗟に腕を切るのすごいです。
マヌケな河童と強すぎる女将の民話が残る熊谷に、さっそく行ってきました。
駅に降りたら派手な看板に出迎えられました。
熊谷花火大会の写真だそうです。
「花火の写真って、見てるとなんか元気になる」
荒川があるのは南口です。
こちらの階段も祭りの写真が使われていて派手ですね。
駅前からほぼまっすぐ歩いていくと、熊谷桜堤に着きます。
緩やかな坂を上っていくと、男性たちの声と、救急車のサイレンが同時に聞こえたので何事かと思いましたが……。
左手でラグビーの練習をしており、
右手で防災訓練をしていただけでした。
わざわざ散歩の足を止めて見学している人もいて(私含めて)ざわざわしていました。
訓練の様子をチラ見しつつ、あらかわおおはしへ。
遠くに山が見えます。
救急車のサイレンの他にも、とんでもなく大きい音をたてながらバイクが走っていったり、中学生か高校生が担当しているという(?)市内放送が聞こえたり、写真で記録できない情報が多かったです。
写真だけ見ると平和ですね。
音の種類に混乱していると、川が見えてきました。
こちらが尻を撫でた挙句、腕をちょん切られた河童が住んでいる川です。
「……」
「なんか……水……少ない……?」
思っていたより水が少なかったです。
でも川と草むらの境あたりに、河童が潜んでいそうな雰囲気がある……ようなないような。
ところで、埼玉には他にも河童がたくさんいます。
「曼荼羅堂の河童、伊草の袈裟坊、笹井の竹蔵(竹坊)が有名だね。
曼荼羅堂の河童と伊草の河童は夫婦だったという話もあるよ!」
埼玉県内の河童同士は交流があり、襲った人間の腸を贈り合ったりしたそうです。
交流方法が邪悪すぎます。
人間には理解できない交流をする彼らですが、河童の妙薬についてはどう思ったでしょうか。
河童らしく尻子玉を抜くでもなく、ただただ尻を撫でただけ。
挙句に腕を切り取られるなんてマヌケすぎます。
「ちなみに腕を返して妙薬の作り方を教えてもらう話と、
腕を返さず終わる話もあるね!」
同じような話で、選択肢によって終わり方が違うの、ゲームみたいでいいですね。
しかし尻を撫でるという最初の接触が最悪過ぎて、河童と女将さんが仲良くなるエンディングは無いでしょう。
夏なので緑が眩しいですが、熊谷桜堤は春の桜が綺麗。
河童たちも花見を楽しんだのでしょうか。
熊谷市のおまけ。
駅前に戻り、そういえば熊谷駅って暑さ対策のミスト装置があったような……と思い出し、せっかくなので帰る前に探しました。
こちらは北口のミスト装置。
涼しくて気持ちよかったので、今すぐ全ての駅に設置してほしいです。
熊谷市内にはむじっけークマがたくさんいます。(河童はいません)
「左のクマさん、凹みがちょうど眉毛みたいに見えてむじっけーね」
「(`・ω・)ω・)」
涼しい水辺もありました。
熊谷市は毎年すごく暑いイメージがあったのですが、実際に訪れたら「思ってたより暑くないかも……?」となり少しショック。
「今年はめちゃくちゃ暑かったから、体が壊れてしまったんだ~!」
ふらっと立ち寄った施設の方と話したら「最近は北海道とかの方が暑いからね……」と妙に弱気なことを言っていました。
なんか悲しいです。
■袖引小僧
「悲しい話と言えば……!」
川島町の中山に、袖引き小僧という妖怪がいます。
袖引き小僧の話は、あとで思い出すとちくちくと悲しい気持ちになって覚えていました。
「夕暮れ時の中山を歩いていると、後ろから着物の袖をクイッと引かれる。
けど、振り向いても誰もいない。
歩き出すと再び袖を引かれて、振り向くとやっぱりいないの繰り返し……!
これは袖引き小僧のせいなんだって!」
「でも、ちょっかいを出すだけで悪さはしないの!
罪のない妖怪で、元は子どもの霊って言われてるみたい。
両親の帰りを待っている間に亡くなった子どもや、父を探す途中で亡くなった子どもだって言われてるよ」
袖なんて破れるぐらい引っ張っていいよという気持ちになります。
さっそく会いに行きましょう。
川島町の中山方面には、若葉駅からバスで向かいます。
「一時間に一本しかない時間帯に来てしまった……」
そういう時は、駅から一分の場所にあるショッピングモールで時間をつぶしましょう。
バスの行き先は『南戸守』です。
※この写真は帰りのバス停です。
相変わらず夏の暑い時間帯に出かけているので、歩いている人はほとんどいません。
ここは夕暮れ時に来るべきでしたが、帰りの都合でこんな時間に……。
町を歩き「袖を引っ張られるってこんな感覚かも」を少しでも味わえたらいいな、という気持ちで散歩します。
バスを降りた先で飛行機雲を見つけると、なんだか嬉しい気持ちになります。
今から向かうのは中山の農協支所。
大明敦さんの『埼玉の妖怪』という本に、袖引き小僧は中山の農協支所から国道までの通りで出たと書かれていたので、ここからスタートです。
ダイダラボッチや大蛇のように、公園や橋などの特定の場所がないので、地図を見ながら近くを散歩しました。
「それにしても風がない……!」
『後ろから袖を引っ張られる感覚』って、着物の袖を風に吹かれるのが原因なのでは……と思うのですが、ほぼ無風だったので何も参考になりません。
ただ、ぼんやり歩いていたら道に飛び出していたサボテンに袖がひっかかりました。
もしかしてあなた……袖引き小僧の生まれ変わり……?
「赤いお花が可愛い!」
袖がひっかかって「あっ」ってなった瞬間、ちょっと嬉しかったです。
(……消えかけの無限郷だ)
中山は無限郷らしいです。
無限郷で両親を探す袖引き小僧……。
サボテンに袖を引っ張られた後は特に何も起こらず……。
暑いなぁと思いながら歩いていると、魚が三連続で飛び跳ねました。
「ちょっとした水の音に癒されるレベルで暑い!」
妖怪が現れるのは夕方や夜が多いといいますが、こんな暑くて眩しすぎる昼間、人間だって用事がなければ外に出たくないです。
その後も、国道の方面へ歩いていきましたが、袖がどこかに引っかかることはなく。
のろのろ散歩する私の横を車が通り過ぎていきます。
昔は車ではなく歩いている人しかいなかったでしょうし、袖引き小僧は道で大人を見つけるたびにちょっかいをかけていたのかな……と想像しながら帰ってきました。
それ以上の悪戯はしないんだから、袖引き小僧はいい子です。
……と、なんだかしんみりしてしまいましたが。
インターネットで袖引き小僧を検索していたら、星野源さんの『異世界混合大舞踏会』という曲のMVに出ていることを知りました。
さっそくMVを見たら、元気いっぱい楽しそうに踊っていて笑ってしまった。
ヘッドフォンをつけた青い子です。
「センターにいる!?」
令和の袖引き小僧は元気いっぱいでむじっけーですね。
川島町のおまけ。
バス停に戻る途中、看板を発見しました。
埼玉のB級ご当地グルメ王決定戦で優勝したそうです。
「『かわべえ』というゆるキャラ、モチーフは町特産品のいちじくなんだとか」
バスが来る直前、ちょうどバス停の向かいの店で、優勝したB級ご当地グルメを食べられることに気づきました。
暑くてぼんやりしていたのか、まったく気づかなかった……。
「今度は夕暮れ時に来て、ご当地グルメを食べて帰る……!」
またひとつやりたいことが増えました。
令和の袖引き小僧も、踊って疲れた後にうどんを食べてるといいなぁ。
■妖怪めぐりは続く
今の時代、突然の災害があっても妖怪のせいにして説明することはないでしょう。
けれども『危険な場所に近づいてはいけない』『夜道を歩いてはいけない』など、子どもに対する戒めには今も妖怪を使えます。
また、大人は知らない子どもたちだけのコミュニティの中では、今もたくさんの新しい妖怪が生まれているはず。
自分が子どもの頃も、近づいてはいけない場所、注意が必要な場所には怖い噂話がありました。
- 夜の神社に入るとトンカチさんに頭を殴られる。
- 狭いトンネルの中で車から手を出すと鎌で腕を刈り取られる。
「自分が子どもの頃の怖い噂話も、
覚えている人が多ければいつか妖怪になっているかも……?」
私も積極的に怖いもの好きの子どもたちに話して、覚えてもらおうと思います。
ついでに妖怪のイメージ画像を残しておけば、のちのち物好きな誰かの創作欲を刺激するかもしれません。
絵を描いたり、立体化したり……。
ちなみに私は作りました。
埼玉の雷獣、むじっけー!